ツバキ・ナカシマによる米ベアリング事業の買収ー動き出す「永続性のトライアングル」

7月10日、株式会社ツバキ・ナカシマ(以降、TN社)は、米国テネシー州に本拠を置くNN社が営むベアリング事業を買収することを発表した。TN社はボールベアリングの精密鋼球を製造する東証一部上場企業で、カーライル(CJP TN Holdings L.P.)が約47%の株式を保有している。

この10年間でTN社の株主構成は大きく変化している。2007年1月、TN社は野村プリンシパル・ファイナンス(の100%子会社)がスポンサーとなるMEBOにより非上場化された。その後、2011年3月、米PEファンドであるカーライルが野村プリンシパル・ファイナンスからTN社の全株式を取得した。そして2015年12月16日、TN社は8年ぶりに東証一部への再上場を果たした。(なお、本件に関してカーライルのリターンを分析した記事がある。本誌として正確性は保証しないが興味ある方はご確認いただきたい。)

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本件買収のシナジーや評価については対象会社の発表資料や今後TN社のアナリストなどが発表する本件に対するコメントを参考にされたい。ここでは詳細を述べないが、相互補完性の極めて高い買収案件であると本誌は考える。一方で425億円という買収金額を海外企業に投じるという決断は時価総額1,000億円未満で有利子負債も相応に抱えるTN社にとって決して軽くない。

ここで考えたいのは、仮にTN社がMEBOをしていなかったらこのような大型の業界再編に踏み切れたのだろうか?、ということである。時価総額が1,000億円に満たない伝統的な製造業に従事する本邦企業が、戦略的な意義は高いとは言え、ここまで社運をかけたクロスボーダーの買収案件に踏み切れるケースは多く見られない。

またIRという観点から本件を見てみたい。本件買収に伴い公開された本件買収に関する説明資料(当社による米国NN社PBC(Precision Bearing Components)事業の買収について)は非常に充実してことがわかる。既存の中期経営計画に対する本件買収の及ぼす定性・定量的なインパクトの分析に始まり、対象会社の概要、TN社に対する当社の意義、そして案件概要とここまでクオリティの高い買収案件の説明資料は多くない。

TN社の経営おける決断力や市場とのコミュニケーション力の高さは多くの時価総額1,000億円未満の上場企業とは比べ物にならない。それはTN社の「経営力」がここまで高いのはMEBO後に経営人財を登用し、企業の経営力の向上にPEファンドが寄与したことが大きいのであろう。PEファンドは投資先企業の業績改善やM&Aの実施等による目に見える事業の成長だけでなく、PEファンドが退出した後も継続する経営力の向上にも寄与する。

TN社の取締役に名を連ねるカーライル大塚氏がマールオンラインに寄稿した記事に「永続性のトライアングル」という言葉がある。本買収案件はまさにこの永続性のトライアングルが機能していることを示す良い事例であると言えよう。

 

会社が「永続性の構築」を目指すときに考えねばならないトライアングルの構成要素があると考える。図2に示した通り、①今後の10年を支えるために必要な「あるべき事業戦略」の構築、②それを実行できる「経営人材」の獲得・活用と「組織インフラ」の構築、そして③そこに貢献できる、あるいは許容できる資本構成の構築、があると考える。
出所;マールオンライン

 

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