ベインキャピタルによる雪国まいたけの49%持分売却ー将来のIPOの成功確率を高める資本政策

7月21日、ベインキャピタルは株式会社雪国まいたけ(以降、雪国まいたけ)の間接持分 49%を米穀卸最大手の株式会社神明(以降、神明)に譲渡する買収関連契約を締結したことを発表した。

ベインキャピタルは本邦において最も活動的なグローバルPEファンドの1社であり、すかいらーくやベルシステム24等、本邦において合計11社の支援実績を有している。11社のうち3社(すかいらーく、ベルシステム24、マクロミル)を上場させるなど、本邦市場に投資先を上場させる経験も豊富に有している。

神明は非上場企業ながら米穀物卸の最大手企業であり、最近は積極的に食品流通・外食企業との連携を国内外で進めている。神明のニュースリリースによると、本件買収は「川上から川下までの食のバリューチェーン」の一部であり、まいたけの新たな需要創造から特に西日本や海外輸出により雪国まいたけの成長を加速させるという。

[blogcard url=”http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB07H09_X00C17A7EAF000/”][/blogcard] [blogcard url=”http://www.nikkei.com/article/DGXLZO16204030Q7A510C1LKA000/”][/blogcard]

当社グループは、(中略)、基幹事業である米穀卸売事業、パックご飯や炊飯米等の加工米飯事業、国内外での外食事業に加えて、近時では青果物や水産品を含めた「川上から川下までの食のバリューチェーン」構築に向け積極的に展開しております。
(中略)当社グループは、ベインキャピタルとの強力なパートナーシップにより、雪国まいたけの外食・中食を通じたまいたけの新たな需要創造、西日本を含めた日本全国での強固なサプライチェーン構築、食文化と合わせた輸出事業の推進といったさらなる成長が実現可能と考えております。
出所:神明ニュースリリース

本件の特徴は全株売却ではなく、49%を売却して51%をベインキャピタルが継続保有するという部分エグジットであることであろう。ベインキャピタルのリリースから、今後3−4年以内に再上場を目指すものと推察される。

「神明とのパートナーシップにより大きなシナジーが期待され、雪国まいたけの中期経営計 画達成は一層確実なものになります。同時に3~4年以内を目途に雪国まいたけの再上場 を目指すことも可能となります。」
出所:ベインキャピタルのニュースリリース

このように上場に先立ち、相当規模のマイノリティ持分(significant minority)を事業会社に提供することはPEファンドにとって様々なメリットがある。早期に売却することにより投資のIRRを高め、また新たに株主となる事業会社とのシナジーにより投資先の成長を加速することができる。

加えて、IPO前にPEファンドの持分を減らしIPO後に継続保有する持分を抑制することにより、IPO後の株価形成に関する懸念を払拭し、結果としてIPOの成功確率を高めうる。下表はベインキャピタルが過去上々させた投資先のオファリングレシオ(市場に放出される株式の割合)である。マクロミルのIPOは66%のオファリングレシオであるが、それでも30%強の株式はPEファンドが継続して保有することになる。PEファンドが大きな株式比率を保有している事自体は、株価の上値を抑える要因となる。「オーバーハング」と呼ばれ、将来的なPEファンドによる持分売却が引き起こす需給悪化を投資家が懸念して積極的に株式を買わない減少である。今回既に49%は安定投資家となる神明が保有しているため、IPO時にベインキャピタルが持分を一括ですべて売却することも可能になる。

出所:会社資料
ベインキャピタル投資先の上場時のオファリングレシオ
上場日
銘柄
オファリング・レシオ
2014/10
すかいらーく
28.7%
2015/11
ベルシステム24
44.5%
2017/3
マクロミル
66.0%
[blogcard url=”http://www.nikkei.com/article/DGXLZO15854070X20C17A4TI5000/”][/blogcard]

最近このようなPEファンドの投資先に対するマイノリティ持分取得の案件が増えている。本年4月にはニトリホールディングスがアドバンテッジ・パートナーズの投資先であるカチタスの3分の1の株式を200億円強で取得した。また昨年11月には三井物産がKKRの投資先であるパナソニック・ヘルスケアの22%の株式を541億円で取得することを発表した。

この背景はPEファンドが投資先のIPOを狙う事例が増えてきているのに加えて、本邦企業のM&Aに関する考え方が柔軟になったことも影響していると考える。過去は多くの企業がM&Aはマジョリティでマイノリティを検討しないと言っていたものの、近年ではマイノリティ持分を取得して投資先とのシナジーを追求することを企図した案件も増えてきている。今後もPEファンドの投資先に対する同種の取引は増えていくと考えている。

PEO編集部

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です