マクセルHDによる泉精器製作所の買収ーDBJが育てつつける優良企業

2018年8月6日、マクセルHD(旧日立マクセル)と日本政策投資銀行(以降、DBJ)は共同で東京海上キャピタル(持株比率:75.6%)とマーキュリアインベストメント(同:24.4%)から泉精器製作所を買収することを発表(DBJの発表はこちら)した。泉精器製作所は家電製品/電設工具製品の製造・販売を行う長野本社の企業である。マクセルHDのは今回の買収を通じて、今後IoT化が進むと想定される電設工具分野での新規事業の創出などを狙っているという。

東京海上キャピタルは、東京海上グループの投資ファンドの運営会社であり、日本のプライベートエクイティ市場の創成期である1998年からファンド運営事業を開始し、以来計5件の投資ファンドを組成・運営している。投資額のレンジは広く50億円を下回るような案件から数百億円のレンジで新規投資を行っている。ワンビシアーカイブス(豊田自動織機へ売却、その後日本通運が買収)、武州製薬(ベアリングPEへ売却)、昭和薬品化工(ユニゾン・キャピタルへ売却)などはメディアでのアテンションも高かった代表的な案件である。

マーキュリアインベストメントはDBJと独立系投資顧問会社であるあすかアセットマネジメントが2005年に設立したPEファンドである。他のバイアウトを主体とするPEファンドとは異なり、ベンチャーキャピタルのようなVC投資や不動産関連の投資も行っている。2016年に上場している。

本件完了後、泉精器製作所はマクセルHDの連結子会社となることからも、買収はマクセルHDがリードしている。しかしながら、本件におけるDBJの果たした役割も大きいと考える。

1.買い手としてのDBJ
マクセルHDは40%出資でDBJは買収に際して60%出資していると想定される。支配権基準から連結はマクセルHDになるが出資額はDBJのほうがマクセルHDを上回っている。

2.売り手としてのDBJ
前述の通りマーキュリアインベストメントは上場企業であるが、出自はDBJのジョイントベンチャーであり、依然として大株主である。ファンドへの投資額などは不明だが、これだけの関与があることから、DBJが一定額をファンドに出資していると考えても違和感はない。

3.2016年までの保有者
2016年6月に東京海上キャピタルは泉精器製作所を買収しているが、これは実はDBJとDBJに近いWISE PARTNERSというPEファンドから買収している。
今回の買収額は182億円と報じられている。まさに泉精器製作所はDBJが「育て続ける」優良企業であると言えよう。マクセルHDのリリースによると売上高(16/3 12,495百万円⇨18/3 14,609百万円)、営業利益(16/3 604百万円⇨18/3 1,259百万円)ともに大きく増加している。今後の泉精器製作所の成長に期待したい。

なお、DBJは政府系金融機関として、様々な側面でプレイベート・エクイティ投資に携わっている。マーキュリインベストメントだけでなく、様々なPEファンドの主たる投資家になっており、また自社としてもPE的な株式投資を行っている(DBJインベストメント・アドバイザリー)。日本のプライベート・エクイティ業界におけるDBJの果たす役割は大きい。この点を改めて確認できる案件であったと言えよう。

 

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