産業革新投資機構(JIC)ー海外投資に対する期待

「単なるゾンビ企業を延命する気は全くない。賢いマネーの供給者になる」

2018年9月25日、官民ファンドの産業革新機構を改組した産業革新投資機構(JIC)が25日、発足した。社長に就任した田中正明氏が会見し、年度内にベンチャーやプライベート・エクイティ(PE)ファンドを立ち上げる方針を明らかにした。投資規模は当面、2兆円超を想定する。JICの業務期間は2034年3月末までで、企業価値を高めて株式を売却する。

企業への投資基準について、田中社長は(1)ソサエティー5.0に向けた新規事業の推進(2)ユニコーンベンチャーの創出(3)地方に眠る将来性のある技術活用(4)既存事業の産業や組織の枠を超えた事業再編などを掲げている。記者会見した田中正明社長は「単なるゾンビ企業を延命する気は全くない。賢いマネーの供給者になる」と強調した。

前身の産業革新機構は09年に設立された。半導体大手ルネサスエレクトロニクスや中小型液晶ジャパンディスプレイなど、救済色の強い投資だとして批判されたことを受けて、JICは技術やユニコーンベンチャーの創出ということを強調している。またソサエティー5.0に向けた新規授業の推進という投資基準を第一に掲げているが、これは具体的に何を指すのか?

将来の成長企業 選別 産業革新投資機構が発足 :日本経済新聞
官民ファンドの産業革新機構を改組した産業革新投資機構(JIC)が25日、発足した。記者会見した田中正明社長は「単なるゾンビ企業を延命する気は全くない。賢いマネーの供給者になる」と強調。人工知能(AI

Society 5.0とはなにか?

Society 5.0は未来投資戦略2017「Society 5.0 の実現に向けた改革」から取り上げられ始めた。未来投資戦略2017には「①狩猟社会、②農耕社会、③工業社会、④情報社会に続く、人類史上5番目の新しい社会。新しい価 値やサービスが次々と創出され、社会の主体たる人々に豊かさをもたらしていく。」として定義されている。政府広報オンラインのSociety5.0のページでは、ドローン、AI家電、医療介護、スマートワーク、スマート経営、自動走行などが具体例として掲げられている。今後Society 5.0の分野も変化・拡大していくが、当面はこれらの実現に寄与するかどうかが投資判断の基準になるのであろう。

海外投資への期待

JICは海外にファンドを設立することも検討しているという。資金や短期的な業績の影響から、海外ユニコーン企業のような企業価値に対して業績が伴わない企業への民間企業の投資は容易ではない。このような分野ではJICが政府系ファンドという位置づけで中長期的な観点、Society5.0という切り口で積極投資していくことは本邦のグローバル市場での競争力を保つという観点から望ましいと考える。

産業革新投資機構:発足 海外事業も積極出資 – 毎日新聞
 経済産業省が所管する官民ファンド「産業革新投資機構(JIC)」が25日、改正産業競争力強化法施行を受け正式に発足した。発足時の投資能力は前身の産業革新機構(INCJ)と同じ2兆円だが、今後は上積みし、民間資金も呼び込みながら海外の成長事業にも積極投資する方針だ。【和田憲二】

INCJへの評価

そもそもINCJはそんなに批判されるべき組織なのだろうか?確かに批判されているような国策投資とみなされるような投資はあったかもしれない。しかし、どの国のソブリン・ウェルス・ファンド(Soverign Weath Fund、以下、SWF)も自国産業の育成という観点での投資は行っている。本邦の半導体メモリ技術の国外流出を避けることは重要であることは衆目の一致するところであり、そのために機動的に使える資金としてINCJの資金を活用することは、

またINCJは直接ベンチャー・スタートアップ企業に投資するだけでなく、本邦のベンチャー・キャピタル(以降、VC)に資金を投じている。「日本のベンチャーエコシステム現況における 官民ファンドの貢献と今後への期待」によると、9件564億円をVCに投じている。中小機構とともに日本のVC・スタートアップのエコシステムに対してリスクマネーを共有するという役割を果たした。

INCJの貢献については別の機会に考えてみたい。