アスパラントグループによるユメックス社株式の譲受ーPEファンドを活用の好事例

2018年7月18日、アスパラントグループは運営するAG2号投資事業有限責任組合が株式会社リクルート(以降、リクルート)からユメックス株式会社(以降、ユメックス)の全株式を保有するユメックスHD株式会社の全株式を譲り受けることを発表した。ユメックスは日刊新聞やタウン誌に折り込む求人広告を制作・発行に従事し、地域・地元での採用という点に強みを持つという。

本件は典型的な大企業によるノンコア事業の売却であり、PEファンドを活用する上で適した状況であると言える。紙媒体の新聞発行部数が減少する中で、ユメックスの事業規模は穏やかに縮小しているのではないかと推察される。日本新聞協会発表の新聞の発行部数推移によると2010年には5千万部を超えていた発行部数は、2017年には4.2千万部程度まで落ち込んでいる。近年のネット求人の隆盛からすると、求人広告を利用する企業も求人広告予算を新聞の折込などの紙媒体からネットにシフトさせていることは想像に難くない。

このような事業環境に対応するためにはユメックスとしては大胆な施策を実施する必要がある。しかしリクルート傘下にいる限り、そのような大胆な施策を実施するのは通常困難である。いくつか理由がある。大胆な施策の実施のために資金・資本が必要な状況でも、リクルートとしてそれらを提供しない可能性が高い。なぜなら、すでに他事業でネット求人へのシフトは成功しているからである。またそのような状況においては、対象会社の経営陣・従業員ともに変革へのモチベーションは高まらない。したがって、リクルートの傘下にある限り、縮小する既存事業(と少しの工夫)ということにならざるを得ない。

PEファンドが買収する事によって上記の状況は一変する。ファンドが成長に必要な資金を提供する。経営陣とともに企業のポテンシャルを活かすためにやるべきことを見定めて、経営陣はそれに基づき事業構造改革を実施する。その結果、短期的な業績の悪化が生じても構わない。経営陣・従業員は大企業傘下ではないというプレッシャーとともに、変革や構造改革を実施することに対するモチベーションが高まる。ユメックスとしても今後は求人広告だけでなく、既存の顧客基盤を生かして、求人広告以外の人材獲得・活用のソリューションを展開していく方針だという。

また本件はアスパラントグループの特徴が現れた案件であると感じている。実はこのような手間のかかる事業のターンアラウンドや事業構造改革を実施することに消極的なPEファンドも多い。その中でアスパラントグループはオペレーションの改善を重視し、そのために経営支援チームを常駐で派遣するという。いわゆるハンズオン投資を主としている。CEOの中村氏は産業再生機構や企業再生支援機構でまさにターンアラウンド投資に従事しており、この分野では最も経験豊富なPEファンドのプロフェッショナルである。

アスパラントグループの支援を受けたユメックスが数年後にどのような企業になるのか楽しみである。

 

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