5月31日、アドバンテッジパートナーズ(以下、AP)はやる気スイッチホールディングス(以下、やる気スイッチH)の買収を発表した。全株式をアドバンテッジパートナーズが設立する特定目的会社が譲り受け、その特定目的会社に創業者である松田氏は再出資を行い、継続して社長として経営に従事する。これをやる気スイッチHの「第二の創業」として位置づけ、将来の株式上場を目指す。また特定目的会社は「モチベーション」を切り口としたコンサルティングを行う株式会社リンクアンドモチベーションからも出資を受ける。
やる気スイッチグループは、個別指導塾・英会話スクール・幼児教育・民間型託児保育などの運営を行っており、個別指導塾の「スクール IE」、英語が身に付く学童保育「Kids Duo」などを展開ブランドを有する。スクール IE はFC を含め日本全国で 1,027 教室(2017 年 2 月時点)を展開している。グループ全体の売上高は約 160 億円、グループ全体の運営教室数は 1,317 となっている。
本件投資は「やる気スイッチ」という言葉に対する認知度の高さ故か、比較的メディアによる注目が高く、日本経済新聞による報道だけでなく、東洋経済も直後に松田社長に対するインタビューを掲載している。
[blogcard url=”http://toyokeizai.net/articles/-/174444″][/blogcard]PEOとしては本件投資の特徴に着目したい。本件投資は次の3つーPEファンドの投資の際によく耳にする「第二の創業」、最近教育事業に対するPEファンドの投資が散見される背景、そしてリンクアンドモチベーションーであると見ている。
そもそも「第二の創業」とは何を意味するのか?試しに「第二の創業」と「ファンド」と検索すると多くのファンドが様々な局面でこの言葉を使用しているのがわかる。赤字・財務基盤の弱体化でリストラ必死の企業がPEファンドの出資を受け入れて「第二の創業」と言うのであればわかりやすい。しかし、やる気スイッチHは順調に事業を成長させている企業であり、なぜ「第二の創業」が必要なのかわからない。それを考える上で、前述の東洋経済記事における以下のコメントは松田氏の考える「第二の創業」のヒントになる。
「競争相手も増えるだろうな、と思った」と松田氏が言う通り、学習塾・予備校全体の市場規模は9,650億円(矢野経済研究所調べ、2016年度予測値)とやや頭打ちの傾向だが、個別指導塾のシェアはじわじわと増え続け、今や45.1%(同)に達している。(東洋経済オンライン)
松田社長は今回の買収について「少しは悩んだ」とも明かす。「『ワンマンのままの方がよかったかな』と。でも、自分のメッセージをより多くの人に伝えるため、(具体的には未定だが)将来的には株式公開を意識している。会社を公的なものにするならば、世の中の信頼を得ていかないと」(松田氏)。(東洋経済オンライン)
金銭的な観点を除けば、経営上の課題・悩みがなく、今後も経営を継続する意図を有している創業経営者が株式をPEファンドに売却することはほぼないと考える。インタビューでのコメントから推察するに、松田氏はこれまで驚異的な成功を収めた自身のやり方では、将来的に頭打ちになる可能性を懸念していたのではなかろうか。今後学習塾・予備校、さらには個別市場塾の市場が頭打ちになる中で競争も激化することが予想される環境、事業規模が急拡大し多様化しつつある自社の状況を考えたとき、自分自身が「ワンマン」として経営し続けるよりも、PEファンドのような外部プロフェッショナルを迎え入れることにより、成長の軸を変える・成長の傾きをかえる、ことをねらったのではなかろうか。
市場の成長が頭打ちになる中で競争が激化しているのであれば、業界再編が進む可能性が高い。APは過去リンクアンドモチベーションに売却したインタラック等の教育事業への投資経験があるし、何よりもM&Aなどにより業界再編を主導することが得意である。APは2008年に民事再生に陥ったダイア建設から子会社のマンション管理会社であるダイア管理などを買収した。その当時、ダイア管理は単に中堅規模の管理会社の1社であり、業界再編を主導するような立場ではなかった。その後、社名をコミュニティワンに変えて、中小規模のマンション管理会社を買収し、管理戸数を15万戸まで増やした。それを管理戸数が30戸で業界3位の東急コミュニティが買収した。APは本件取引で非常に高い収益を得ただけでなく、中堅のダイア管理を業界再編の核となる会社まで成長させたのである。余談であるが、このAPによるコミュニティワンの案件はハーバードビジネススクールのケーススタディとなっている。
このようなAPによる経営の方向性の変化こそが松田氏が「第二の創業」として欲していたものと推察する。今後のやる気スイッチHの取り組みにより、松田氏とAPが考える「第二の創業」が見えてくるのであろう。
(後編に続く)
PEO編集部
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