MBO+革新機構への合流提案により東芝半導体争奪戦はベインが有利

5月19日、日本経済新聞は「米ベイン、MBO提案 東芝半導体、入札期限先延ばし」と報じた。記事によると、ベインキャピタルは東芝の半導体メモリー事業買収を東芝メモリの経営陣共同で買収するMBO(マネジメント・バイアウト)のスキームで提案するという。元々、ベインキャピタルの1次入札における共同投資家であった韓国のSKハイニクスは「SPCへの資金提供」という形で一旦影をひそめることにより、外為法による制限がかかる可能性を排除している。更に、革新機構に「合流提案」をしているという。

米ベイン、MBO提案 東芝半導体、入札期限先延ばし :日本経済新聞
 東芝の半導体メモリー事業の入札で、米投資ファンドのベインキャピタルがMBO(経営陣が参加する買収)を提案することが18日わかった。同事業を分社した「東芝メモリ」にベインが51%以上出資し、残りは東芝
米ベイン、革新機構に合流提案 東芝半導体売却で WDの出方焦点 :日本経済新聞
 米投資ファンドのベインキャピタルは東芝メモリの買収に向けて、同社の経営陣らと同時に官民ファンドの産業革新機構に共同出資を打診する。日米連合の形を整えて日本政府や世論の後押しを受けながら買収を進めたい

非常にうまく仕組まれたストラクチャーだと思われる。まずMBOという建付けである。当編集部は東芝の半導体メモリー事業の経営陣の個人的資産に関する知見はないが、2−3兆円という対象事業の事業金額からすると、経営陣が買収のために拠出できる資金はわずかな名目上の金額にならざるを得ない。その金額以上に、大きな意味を持つのは、経営陣がベインのストラクチャーを支持するということである。本件における一義的な意思決定は東芝本体(及びその債権者、そして外為法の観点からは日本政府)であり、対象会社の経営陣ではない。しかしながら、対象会社の経営陣が支持するということは、今後の事業成長の観点、特に対象会社の経営陣・従業員にとっては望ましいということであり、東芝本体における意思決定でも無視しづらい。

但し、このベインのMBOの提案はどこまで東芝の半導体メモリー事業の経営陣の賛同を得ているのかわからない。通常このような入札の過程では会社側へのコンタクトは制限されており、この過程で経営陣が独自にベインと相談し方向性について合意しているとは考えにくく、どこまで経営陣の意向を汲んだ提案になっているのかが重要であろう。

もう一つの特徴は革新機構への合流提案である。革新機構はKKRとの共同応札ということで報じられていた。革新機構が民間組織であれば、ベインのこのような提案はナンセンスであるが、幸い革新機構は公的組織である。それが故に、入札のような局面では非常に複雑な意思決定を迫られる。例えば、今回の入札で文句のつけにくい日本企業が入札していた場合、革新機構はそのような日本企業に対抗して入札をすることはほぼ不可能だと思われる。革新機構は特定の日本企業の利益に反するような動きは取れない。幸い今回はそのような日本企業は入札に参加していないと思われる。

今回革新機構がKKRとの入札に前向きな姿勢を示したのは、他買い手候補が外為法の懸念があるような海外の半導体企業であったのに対してKKR連合はそのような買い手候補がいなかったことが大きいと思われる。誤解を恐れずに言えば、革新機構は日本の技術産業を日本で更に伸ばしていくことが使命の一つであるとも言える。その観点からすると、技術やノウハウの海外流出を引き起こす可能性がある海外半導体企業による東芝半導体メモリー事業の買収に加担することは難しい。

しかし今、KKRだけでなく、ベインもSKを単なる資金提供者と位置づけたことにより、ベインはKKRと同じく、革新機構が支援できる買い手候補になったと思われる。革新機構は「先にKKRさんと組んでいるので。。」という民間企業なら当然のロジックを使うことはできない。あくまで日本のテクノロジー産業の振興のためによりよいパートナーを選定していくことが必要であり、両者の提案をしっかり検討しなければならない。

今回ベインは革新機構に合流提案を出すに当り、革新機構の投資判断基準に照らし合わせて、ベインの提案を断りにくい提案にしていると思われる。先の記事で当編集部の見解としては、KKR連合強しと言うものであったが、このベインの提案は間違いなく大きなゲームチェンジャーであると見ている。

PEO編集部

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