5月31日、アドバンテッジパートナーズ(以下、AP)はやる気スイッチホールディングス(以下、やる気スイッチH)の買収を発表した。全株式をアドバンテッジパートナーズが設立する特定目的会社が譲り受け、その特定目的会社に創業者である松田氏は再出資を行い、継続して社長として経営に従事する。これをやる気スイッチHの「第二の創業」として位置づけ、将来の株式上場を目指す。また特定目的会社は「モチベーション」を切り口としたコンサルティングを行う株式会社リンクアンドモチベーション(以下、L&M)からも出資を受ける。
前編では創業者の松田氏による再出資と、それによる「第二の創業」について考えた。こちらの後編ではプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)による教育市場への投資と、L&Mとの共同投資という観点について考えてみたい。
学習塾・教育事業に於ける再編
5月15日のJ-STARによるアルファコーポレーション買収の記事にある通り、個別指導塾の成長は鈍化しつつある。個別指導塾の売上推移、特に大手の名工ネットワークスの売上高は2011年度以降、伸び悩んでいる。背景として、学習塾の事業所数全体の伸び悩みがある。やる気スイッチHのように個別企業では伸びていても、全体のパイが増えない市場環境になっている。
出所:経済産業省『特定サービス産業動態統計:学習塾』 | 出所:会社情報 |
学習塾の事業所数 伸び率推移 | 個別指導 主要企業の売上高推移 |
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そのような市場環境では、業界再編が進みやすい。予備校の東進ハイスクールを運営するナガセによる大学受験塾の早稲田塾の買収や通信教育大手のZ会による塾・個別指導塾大手の栄光ホールディングスの買収等、集団指導と個別指導、小学校受験から大学受験等ののサブセグメントの垣根を超えた再編が進みつつある。
近年の学習塾・教育関係の主要な買収案件 | ||||||||||||||||||||||||
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出所:会社発表等 |
その背景として2020年度からの大学入試改革であると言われている。J-STAR、アドバンテッジパートナーズに続き今後もこの学習塾・教育市場でのPEファンドによる投資が行われると見る。
[blogcard url=”http://toyokeizai.net/articles/-/71948″][/blogcard]コーポレートベンチャーキャピタルとの共同投資
東芝の半導体メモリ事業のような大型のカーブアウト(事業切り出し)案件では散見される事業会社との共同出資は、本件のような中堅規模の創業者持ち分の売却案件では必ずしも多くない。PEファンドがこのようなバイアウトから上場に向かうケースでは、上場に先立ちマイノリティ株主を迎え入れるケースが多い。例えばカーライル投資であった介護サービスなどを提供するソラストの場合には、上場前に大東建託などの事業パートナーを株主として受け入れた。今回のケースは事業パートナーとなるL&Mを投資時点から受け入れたという点が珍しい。
L&Mとしては本件を本業としての投資ではなく、インキュベーション事業としての投資であると発表している。L&Mのインキュベーション事業はベンチャー企業を中心に様々な投資を行っており、2016年に上場したゲーム会社のアカツキも投資先であった。最近はベンチャー中心に投資をするCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も増えてきており、このようなCVCがバイアウト投資先にPEファンドと共同出資する本件のようなケースが増えてくるかもしれない。
なおAPとL&M両者は過去、2014年にAPが法人向け語学学習学校のインタラックをL&Mに売却したという接点を有している。
PEO編集部
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