東芝入札に関して、官民ファンドである産業革新機構がKKRと共同で応札すると23日付で日経が報じた。
東芝入札、ファンドに強み 半導体、KKRと革新機構が軸
独占禁止法などの制約が少なく、豊富な資金力を持つことで有望事業を巡る動きは両社を軸に進む見通し
日経はKKR・産業革新機構の組み合わせが現時点で最有力候補であると見ている。
本件入札は極めて政治的な意思決定がなされることは間違いない。一般的に企業買収の入札において、圧倒的に重視されるのは入札価格である。売り手企業、ひいては売り手企業の所有者である株主と債権者にとって、売却される企業(事業)の今後の行く末など、極論すれば「知ったことではない」のである。対象事業を手放す売り手企業にしてみれば、売却される事業が売却後にうまくいくかどうかは関係ない。
しかし本件はそれに該当しない。なぜなら、東芝は当該事業を完全に手放すつもりはないからである。マイノリティになるかマジョリティになるかわからないが東芝は東芝半導体の相当な持ち分を継続的に保有するものと予想される。売却の目的はあくまで、売却益による債務超過の解消と、売却手取金による負債削減であり、それが実現する最低限の持ち分しか売却したくないというのが本音だろう。
上記の考え方に立脚すると、買い手は事業会社よりもファンドのほうが望ましい。事業会社は保有し続けるため東芝単独での東芝半導体に対するガバナンスは効きづらくなる。一方でファンドであれば、一定期間後に売却するので、東芝は仮にマイノリティ株主となってもファンドが売却後には筆頭株主として影響を継続できるし、どこかで一部買い戻してマジョリティに戻すことも可能だ。
したがって本件入札で勝つのはそこそこの価格で、更に東芝に対峙するようなことはせずに、可及的速やかに「退出」してくれるようなファンドの買い手候補だと思われる。そして買い手は投資実行と同時に数年後のIPOに向けて動き出す。もっと言えば数年後のIPOの価格を決めて、そこから逆算して十分リターンが取れる価格での投資になるのであろう。
このシナリオは東芝の株主にとっては必ずしも望ましくないかも知れない。株主にしてみれば、100%売却でも良いので、要は高く買ってくれる投資家が望ましい。これだけ注目を集める入札プロセスであるから、高い価格を提示したのに入札に負けたとなれば、そのような買い手候補は入札の価格を開示して自社に売却するように東芝の取締役会にプレッシャーを掛けることも可能である。しかし、本件ではそのような動きに対処する仕組みが適用される。外為法というブラックボックスのスクリーニングプロセスにより、価格が高い買い手候補に売却しない理由を作り上げることになる。これにより価格が高くても望ましくない買い手候補を排除しうる。
東芝の半導体事業、外為法の事前届出制の対象=菅官房長官
海外企業に売却する場合には、国の安全等の観点から厳格な審査を実施する
株式市場はこのニュースを好感している。売却の確度が高まったという点が評価されているのであろう。しかし、一方でこのニュースにより鴻海に3兆円で売却できる可能性が低下していることも念頭に入れるべきであろう。
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